研究方針
当室では、環境・生体をキーワードとした構造および機能性材料の創製に取り組んでいます。本研究室では専門分野に捉われず、金属と化学の複眼で 多角的に材料を捉え、材料の創製・機能評価・分析を一貫して行うことで、効率の良い研究に努めています。当室で扱う研究テーマについて以下に概説します。
質問ありましたら mizukosi(at)imr.tohoku.ac.jp までお寄せください。
企業様からの技術相談もお待ちしております。
水溶液中に配置した電極間に高電圧を高周波パルスで印加しますと、電極近傍の水がジュール熱で加熱されて沸騰し、生じた気泡が絶縁破壊を誘起します。これによって生じるグロー放電は液中のプラズマ反応場として注目されています。
上の動画で反応容器内でピンク色に光っている部分がプラズマです。スペクトルからプラズマ内には、水素原子、酸素原子の他、OHラジカルも発生していことが分かりました。反応中は激しく水素ガスが発生し、溶液中には過酸化水素が生成します。
このプラズマを用いると、貴金属イオンの還元によるナノ粒子の合成など材料創製や材料の改質が可能です。
参考文献: Y. Mizukoshi, N. Masahashi and S. Tanabe, Science of Advanced Materials, 6 (2014) 1569-1572.
さらに、溶液中の有機物等の分解も可能であり、環境保全プロセスへの応用も期待できます。
また最近、この水中プラズマを従来のバッチ式からフロー式に改良することに成功しました。この「ノーベルフロープラズマ(novel flow plasma)システム」では下記の動画のように、流水中(約8 L/min)に安定的にプラズマを形成・維持することが可能です。流水がプラズマと接触する構造であるため、大量の水処理が可能なだけでなく、高い反応効率が期待できます。材料プロセシングや環境保全等の分野における実用化を目指して研究を進めています(京都・栗田製作所との共同研究)。
Youtubeでも視聴可能
参考文献: Y. Mizukoshi, R. Katagiri, H. Horibe, S. Hatanaka, M. Asano and Y. Nishimura, Chemistry Letters, 44 (4) (2015) 495-496.
超音波化学とは
高出力の超音波を溶媒中に照射した際に生じる微小な気泡は、崩壊時に高温(数千度)・高圧(数百気圧)の高エネルギー反応場を形成します。この「キャビテーション現象」を起源とするのが、超音波化学反応です。高出力超音波を貴金属イオン(Au3+、Pd2+、Pt2+、Pt4+、Ag+)および界面活性剤等の有機添加剤を含む水溶液に対し照射することで、貴金属イオンが還元され、貴金属ナノ粒子が生成します。
クリックすると図は大きく表示されます。
これまでの研究で、界面活性剤等の有機添加剤が超音波反応場で直接的に熱分解されて、あるいは同反応場で発生したラジカルと添加剤との2次的な反応で生成した有機ラジカルによって貴金属イオンが還元されるという反応機構が分かっています。つまり超音波の化学作用によって還元剤をその場で発生させることが本法の特徴です。超音波還元法と称する同法は、近年は液相での貴金属ナノ粒子作製法のひとつとして広く知られるようになっています。
超音波還元法による合金ナノ粒子の作製
2種類の貴金属イオンを含む反応系のに対して同様に超音波を照射すると、合金ナノ粒子が得られ、反応条件に応じて構成金属の粒子内分布が変化することをはじめて報告しました。金・パラジウムの系では、金イオンの還元が終了した後にパラジウムの還元が始まり、この2段階の還元過程が反映され、金コア・パラジウムシェル型ナノ粒子が生成します。これに関連する論文は、触媒活性の研究で近年さかんになったコア・シェル等ナノ構造に由来するシナジー効果の研究に先鞭をつけ、高い頻度で引用されています。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:Y. Mizukoshi et al. J. Phys. Chem. B, 101(1997)7033., Y. Mizukoshi et al. J. Phys. Chem. B, 104(2000) 6028. など
ナノ粒子担持材料の調製と応用
ナノ粒子分散溶液のままではハンドリングが困難です。適当な担体存在下で貴金属イオンを超音波還元することで、ナノ粒子を担体表面に均一に固定化できます。この方法は水素還元等の高温プロセスを含まず、熱的に不安定な高分子等の担体に対しても適用可能である点、さらに構造を制御した合金ナノ粒子の担持が可能である点において従来の含浸法と一線を画します。本法で作製した材料の一例を下に示します。
クリックすると図は大きく表示されます。
本法で得た生成物の中でも、金・磁性体複合ナノ粒子は、高分散性、低い毒性に加え、金が硫黄を含む化合物と選択的に結合するため、生体分子(グルタチオン、アミノ酸、DNA)の磁気分離キャリアとして応用が可能です。この成果はテーラーメード医療の実現や磁場を用いたドラッグデリバリーシステムへの応用が期待できます。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:Y. Mizukoshi et al. Scr. Mater., 54(2006)609. ,Y. Mizukoshi et al. Ultrason. Sonochem.,12(2005)191. など
一方、パラジウム・磁性体複合ナノ粒子は、ヘック反応やニトロベンゼンの部分還元反応に対して高い触媒活性を示し、磁石によって回収可能で、繰り返し使用の際も初期活性を維持できることから環境調和型触媒としての利用が見込めます。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:Y. Mizukoshi et al. Chem. Lett., 37 (2008) 922.
陽極酸化法とは
陽極酸化法は電気化学反応によって金属表面に酸化膜を形成する方法で、着色あるいは耐食を目的とした表面改質に広く実用されています。当研究室では、これをチタンに適用し、二酸化チタン光触媒の作製に取り組んでいます。基材の表面を二酸化チタン光触媒で被覆する方法としては、湿式法としてデイップコーテイング、スピンコーテイング、スプレー等、乾式法としてスッパッタリング、イオンプレーテイング、蒸着等が知られています。これらと比較しこの陽極酸化法には次のような長所があります。
(1)簡単な設備で実施が可能:電解槽と電源のみ
(2)複雑な形状の基材、大型基材にも適用可能
(3)酸化物層と基材との密着性が良好(熱力学的平衡反応、熱膨張係数の差がない):高耐久性
(4)酸化膜へのドーピングや組織制御が可能
純チタン材の陽極酸化
高濃度の硫酸水溶液電解浴中で高圧印加下にてチタンに陽極酸化を施すことでルチル構造の二酸化チタンが生成し、同じ方法で作製したアナタース構造の二酸化チタンを凌ぐ高い活性を示しました。ルチル型二酸化チタンが高活性を示したとの報告例はこれまでにほとんどなく、この原因として光励起電子と正孔の再結合サイトといわれる格子欠陥密度が極めて少ないためと考察しています。また同材料は、酸化膜に電解質の硫酸に由来した硫黄が取り込まれ、二酸化チタンのバンドギャップが狭窄化することで、実用上重要な可視光照射下における活性を有することを明らかになりました。従来法であるゾル・ゲル法やCVD法で作製した膜と比較して剥離しにくいことも判り、実用上極めて優れた機能を有すると言えます。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Nasahashi et al., Chem. Lett., 37(2008)1126. N. Masahasi et al., Appl. Catal. B Environ., 90 (2009) 255. など
チタン合金の陽極酸化
近年はチタン合金の陽極酸化にも取り組んでいます。チタン合金の陽極酸化では、二酸化チタンに加え、合金を構成するチタン以外の元素も酸化され、酸化物となります。例えば、一般的なチタン合金Ti-6Al-4V(Ti64)に陽極酸化を施しますと、表面に二酸化チタンに加え、酸化アルミニウム、酸化バナジウムが形成されます。可視光線を吸収する酸化バナジウムと二酸化チタンが接合することで、可視光照射下でも優れた機能を示す光触媒材料が得られることが分かりました。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Nasahashi et al., Thin Solid Films, 520 (2012) 4956. Y. Mizukoshi et al. Chem. Lett. 41 (2012) 544. など
生体用材料への応用
細胞毒性のない元素から構成されるインプラント用の新規Ti合金である、TiNbSnの表面に陽極酸化膜を形成することで、骨芽細胞の形成促進とオートクレーブ殺菌処理時に懸念される相変態を抑えることにより、機械的性質劣化の抑制が期待できます。図1は硫酸水溶液で陽極酸化を施した時の、光触媒活性(メチレンブルーの脱色反応速度定数)230の硫酸濃度依存性です。純Tiの陽極酸化膜ほどではありませんが、硫酸濃度の増加と共に活性の改善が認められます。またTiNbSnの低ヤング率が、陽極酸化膜を担持しても変わらないことが判り(図2)、インプラント用表面修飾として期待されます。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Masahashi et al., Thin Solid Films 519 (2010) 276–283.
固相接合とは
材料の接合は、材質的接合(溶着)と化学的結合(接着)、機械的締結があります。固相接合とは固相のままで接合する方法で溶着の一つです。接合性を上げるために、塑性流動と原子拡散を促進することが有効で、融点以下の高温で圧力を印加させながら接合させるのが一般的です。固相接合のうち拡散接合は、著しい塑性変形を伴わず拡散のみで金属同士を接合する方法です。拡散を阻害する表面層や表面凹凸が無い状態で、相互拡散を促進させることで原子間の緻密な接合が可能となります。なお、圧力の印加は、相互拡散に対し大きな影響が無いことが判っていますので、圧力印加による塑性変形は起こりません。こうした緻密な原子間の接合を低温で行うことは、プロセス上有利です。また、接合中に固相反応を付与することで新しい組織の形成が可能となります。さらに、電流などの外場を印加することで、拡散の促進が期待でき、更に緻密な接合材の創製が可能となります。
固相反応利用による接合材の高機能化
拡散接合中に固相反応をおこすことで、接合界面近傍で新組織を形成し、接合性の改善が期待できます。図1はFe-Al合金と炭素鋼の拡散接合後の接合面近傍のOIM組織と、そのせん断試験の応力歪線図です。接合条件に依存して柱状晶が形成されますが、柱状晶を形成する組織の方が未形成組織よりもせん断強度が高く、界面近傍の組織が接合強度に影響することが判ります。図2は柱状晶形成のモデルですが、AlはFe-Al側から固溶度の高い炭素鋼へ拡散し、Al濃度がFe-Al状態図のγループ境界近くで、接合面でα核を生成し、濃度勾配を駆動力に柱状晶が形成されます。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Masahashi et al., ISIJ International 44 (2004) 878, N. Masahashi et al., Intermetallics 13 (2005) 717.
高機能複合鋼板の創製
高温強度と軽量性に優れたFe-Al合金と種々の鋼板を拡散接合させることで、耐食性を備えた軽量複合材の製造を行いました。ポイントは接合性を阻害する界面での酸化膜形成を抑制することで、そのために予備接合を施します。予備接合を施したプリフォーム材は、冷間で板厚150 mm、板長4 mの複合鋼板にまで形状付与することができました。この複合鋼板は同一体積の鋼板に比べ、9%も軽くなり、曲げによる破壊歪みは0.1を超えます。また硫酸水溶液にて腐食試験の結果、鋼板に比べると腐食損量は、40℃では一桁、60℃では約1/3にまで低減することが判りました。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Masahashi et al. Met. Mat. Trans., 37A(2006)1665 , N. Masahashi et al. Corros. Sci., 48(2005)829.
拡散接合に及ぼす圧力の効果
拡散接合における組織形成と拡散挙動に及ぼす圧力印加の効果を解明するために、CrMo鋼とFe-Al合金の拡散接合時にHIPを用いて196MPaの高圧を印加しました。圧力印加による構成元素の拡散への影響は認められませんでしたが、界面近傍の組織は、通常接合材で観察される接合界面からCrMo鋼側への柱状晶組織の発達が抑えられ(図1)、柱状晶先端からマトリックスにおいて微細化による硬度増加が確認できました(図2)。これはラス状マルテンサイト形成に伴う転位密度の増加に起因し、HIP印加による組織形成を確認できました。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献:N. Masahashi et al. Mat. Trans., 46(2005)1651.
TiAl組織制御材の拡散接合
TiAlは飛翔体の材料として期待され、超塑性変形能と拡散接合性の付与が必要です。そこで組織制御により作製した、超塑性変形能を有する微細二相β+γ TiAl金属間化合物の拡散接合性を調べました。その結果、γ-TiAl微細金属間化合物に比べ、高い接合強度を有することが明らかになりました(図1)。粒界β相は接合後に、界面近傍(図2(a)-(b))や、圧力が局在する試料端(図2(c)-(d))で部分的にγ+α2ラメラー組織を形成し、本合金の高い接合性は、拡散接合中にβ相がα2相への相変態に伴う、β安定化元素であるCrのα2およびγ相への拡散による、拡散促進によることを提案しました。
クリックすると図は大きく表示されます。
参考文献 Y. Mizuhara et al. Mat. Trans. JIM, 41(2000)429. , N. Masahashi et al. Mat. Trans., 42(2001)1028.